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口腔機能「飲み込む力」について考える

口腔機能「飲み込む力」について考える1

 

わたしたちは、食事をするとき、また、人と会話をするときに、口の機能(以下、口腔機能)を働かせています。口は、「食べる」「話す」を行うための、大切な器官です。 しかし高齢になると、口腔機能が低下して、食事や会話がスムーズにできなくなるだけでなく、思わぬ病気を引き起こすこともあります。 口腔機能の低下は、早期発見、早期対処による改善が可能です。 また早いうちから対処すれば、予防することもできます。 今回は、口腔機能の低下に早く気づくためのポイントや、日頃から手軽にできるお口のトレーニングについてもご紹介します。

 

じつは色々な役割がある、口腔機能

 

食べる・話す・呼吸をする・表情をつくる


 

口腔機能は、美味しく食べたり、楽しく話したり、呼吸をしたり、豊かな表情をつくることにも関わっています。 機能が低下すると、口が乾く、むせやすいなどの症状がでてきたり、噛めないものが増える、飲み込みにくい、食べこぼしが多いといった食事の問題がでてきます。 また発音がはっきりしない、表情が乏しくなるなどの症状も見られるようになります。 口腔機能の低下した状態を放置していると、食事をすることが難しくなることから低栄養や誤嚥性肺炎などのリスクが高まります。 また全身の筋力低下も見られるため、外出をする機会が減ったり、転倒などのリスクが高まる恐れがあります。 口腔機能をすこやかに保つことは、健康寿命を長く保つことにも結びつくと考えられます。

 

まだまだ認識されていない、口腔機能の重要性


 

2020年の、日本人の男女合わせた死因順位を見ると、誤嚥性肺炎で亡くなった方の割合は全体の3.1%、42,746人で、悪性新生物(腫瘍)、心疾患、老衰、脳血管疾患、肺炎に次いで6位となっています。 しかし日頃の飲食が、命に関わる事故につながるとは考えにくく、あまり意識をしていない方は多くいらっしゃいます。 以前より飲み込みにくい、食事の際にむせやすいと感じたら、そのまま放置せず、改善のための早期対処が必要です。 では誤嚥性肺炎とは、どのようにして起こるのでしょうか。

 

誤嚥性肺炎とは?


 

食べ物や水分、唾液などが気管に入ってしまうことを、誤嚥(ごえん)と言います。 誤嚥性肺炎は、食べ物や飲み物、自分の唾液に含まれている細菌が誤って気管に入ってしまい、肺まで到達することで細菌が繁殖し、炎症を起こして生じる感染症です。 通常は食べ物を飲み込むと、食道(食べ物や水分の通り道)に運ばれますが、呼吸は気管(空気の通り道)を通っていきます。 これを振り分けているのが、喉の奥にある喉頭蓋(気管の入り口にあるフタ)です。 食べ物がやってきたときに、このフタがうまく閉まらないと、気管に入ってしまい、誤嚥が起きることがあるのです。 食事中などにむせるのは、気管に食べ物が入ってしまいそうになったとき、咳をすることでそれを回避しようと体が反応した証拠です。 きちんと反射的に咳ができるということも重要ですが、たびたびむせるようになったと感じる場合には、気管のフタがうまく機能しないことが増えてきたサインかもしれません。

 

飲み込む機能が衰えてきたと感じたら?

 

口腔機能「飲み込む力」について考える2

 

嚥下機能とは?


 

口腔機能の中でも、嚥下(えんげ)機能は、食べ物を口に入れる前の見た目や匂いからはじまって、舌触り、味の感じ方などで口に入ったものを認識し、歯応えを感じながらまんべんなく咀嚼(そしゃく)して、喉の筋力で食道を通して胃へと送り込むという一連の動作のことを言います。 唇や歯、舌や喉、食道の筋肉など体のさまざまな器官が複雑に機能しあって嚥下を支えており、どこかがすこしでもうまく機能しないと、嚥下障害を起こすことがあります。 嚥下障害は、誤嚥性肺炎を引き起こす原因にもなります。

 

どんな症状があらわれる?


 

嚥下障害を早期発見するためには、症状を見極めることが大切です。飲み込む力が弱くなり嚥下機能が低下すると ・食事中にむせる ・飲み込むのに苦労する ・固いものが噛みにくい ・声がかれる ・よく咳をする ・食べる量が減る などの症状がでることがあります。 ご本人に確認しても、自分では変化に気づきにくいため、周囲の方が食事の様子を観察し、気づいてあげることも大切です。 また、3カ月くらいの間に体重が1〜3kg以上減ったという場合には、嚥下機能の低下などが原因の低栄養を起こしているか、他の病気にかかっている疑いもあります。 体重の減少が見られたら、かかりつけ医などの医療機関に相談することをおすすめします。

 

飲み込む力を取り戻す、食事の前の手軽なトレーニング

 

食べ物をじょうずに喉の奥まで運ぶ力をつける


 

嚥下障害を予防、または改善することが期待できる、発声運動「パ・タ・カ・ラ」体操をご存知でしょうか?  イラスト図のような舌の動きを意識しながら、まずはゆっくり区切ってひと息で「パ・パ・パ・パ・パ」を3回繰り返し、次に続けて早くひと息で「パパパパパ」を3回繰り返します。「タ」「カ」「ラ」も同じように行います。 「パ・タ・カ・ラ」体操は、食べ物を喉の奥までスムーズに運ぶための筋肉を鍛える運動で、介護の現場や家庭でも広まりつつあります。 意外とむずかしいので、ゲーム感覚で取り組んでみてはいかがでしょうか。

 

パタカラ体操

 

まとめ

 

口腔機能のうち、とくに「食べる」という行為は、単にエネルギーを摂取することだけが目的ではありません。 食べることは、日常生活において大切な楽しみであり、生き生きと暮らすために必要不可欠な活動です。 目で色や形を認識し、鼻で香りを、そして口で温度や味覚、食感を感じることは、脳への刺激となり、噛むことは脳への血流を促します。 誰かとともに同じものを食べ、同じ時間を共有するという、コミュニケーションの場をつくるのも食事では重要です。 食べることは、心身を健康に保ち、人や社会との関わりを生み、生活の質を向上させることに役立っているのです。 口腔機能が低下すると、食べにくい野菜や肉類を避けてしまいがちです。 まずはやわらかく噛みやすい食事に変え、口の体操を続けることで、食べる楽しみを残しながら、口腔機能の改善をめざしてみてはいかがでしょうか。

 

【参考】


 

厚生労働省 令和2年(2020)人口動態統計(確定数)の概況 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei20/dl/10_h6.pdf(2022年3月現在) 一般社団法人日本老年歯科医学会 口腔機能低下症 患者向けリーフレット http://www.kokuhoken.or.jp/publication/post_123.shtml(2022年3月現在) 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター  令和元年度厚生労働省 老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進事業等補助金)  口腔機能向上加算導入の手引き「居宅系サービス利用者等の口腔の健康管理等に関する調査研究事業」研究班編 https://www.tmghig.jp/research/info/02口腔機能向上加算導入の手引き.pdf(2022年3月現在)

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