近年、口から食べること(経口摂取)の重要性について益々関心が高まっている。経口摂取は、最も生理的な栄養摂取の方法であるが、栄養だけでなく、食事の楽しみを得られることが最大のメリットである。
食事の楽しみの要素としては、主に、見た目・味・香り・テクスチャーなどが挙げられ、人々のQOL に大きく寄与していると考える。
何らかの原因で口から十分な量の食事が摂れなくなるとQOL や栄養状態は大きく低下する 1) 。このような状態が長く続くと体重減少やサルコペニア等、負の連鎖へ繋がり、益々口から食べることが困難な状態となってしまう。
口から食事をすることが困難となった場合は、食材を食べやすい大きさに刻む、軟らかく調理する、ペーストやミキサー状に調理するなど、食べやすくなるための調理・工夫が行われる(以下、調整食とする) 。
調整食は、安全性に配慮している一方で見た目を損なう場合が多く、食欲が減退することが危惧される 2) 。
また、ペースト状に調理するためには、だしやスープなどで加水することが一般的であり、重量当たりの栄養価が低下する。
一般家庭では、やわらかくなりやすい食材を選択されやすく、タンパク質が不足するリスクが生じてしまう 3) 。
そのため、調整食を召し上がる患者さんに対しては食事の見た目や栄養への配慮が必要となる。
当院では、咀嚼障害が認められる患者さんに対する食事の選択肢の一つとして、あいーと®(以下、あいーと)を提供している。
あいーとは、加水を行わず、食材を酵素処理で軟化しており、食材本来の見た目を損ねることなく、舌で容易にくずせるやわらかさを実現している食品である。
当院では、あいーとの満足度を調査するため、あいーとを使用した患者さんに対し、アンケート調査(5段階評価)を行った。
見た目や彩り、風味、味等の項目では、中央値が4(良い)であった。
また、患者さんがあいーとを食べている様子の表情を観察した「表情変化」の項目においても4(良い)であった 4) 。
多施設で行われたアンケート調査では、ミキサー食やきざみ食と比べて見た目のスコアが有意に高いことや、総重量が有意に低い一方でエネルギーやたんぱく質摂取量が有意に多いという報告がされている 5) 。
また、嚥下障害のない高齢者を対象とした調査では、あいーとへの満足度が高かったという結果が報告されている 2) 。
アイトラッキングを用いて認知症高齢者の視線を調べたところ、ミキサー食と比較してあいーとへ視線が集まっていることが明らかになっており 6) 、あいーとの見た目に対する評価は高いと考えられる。
しかしながら、これらの報告は、いずれも主観的な指標であり、あいーとの見た目が食欲増大に繋がっていることを客観的・科学的に示した報告は確認されていない。
そこで、我々は、あいーとの見た目と脳活動、食欲の関係を明らかにするため、fMRI*と食欲に関する調査票を用いて次のような研究を行った。
研究の概要は以下の通りである。
あいーとの見た目が脳活動に影響を与える様子はfMRIを用いた画像解析によって確認された。
また、食欲は10段階評価によってスコア化し、解析結果と食欲の関係を調べた。
さらに、上記それぞれの結果の関連を調べるため、Pearson’sの相関分析を行ったところ、食欲調査票のスコアと報酬系領域のひとつである
左扁桃体の活動との間には有意な正の相関が見られた。
以上の結果より、あいーとの見た目は、報酬系領域の脳活動を高め、食欲増進に寄与することが示唆された。
食事の見た目と食欲の関係を調査した研究では、固形の食品と潰した食品をそれぞれ摂食した場合の「見た目・におい・味・温度・食感」の項目において主観的評価を行った。
その結果、全ての項目で潰した食品のスコアが有意に低くなっていた 8) 。
見た目が損なわれた食事は患者さんの食欲低下に繋がることから、あいーとは調整食を召し上がる患者さんの食事の選択肢になり得ると考えている。
また、実臨床においては、食事の見た目だけでなく患者さんの好みによって食事量が左右されることも多い。あいーとは多彩なメニューであることから患者さんの好みに対応することが可能である。
さらに、メニューを選択する楽しみも得られることからコミュニケーションツールとしての役割も果たし、食事全体の楽しみに寄与できる製品である。
実際にあいーとを活用している院内のスタッフに対し、あいーとを使用した感想を尋ねてみると以下の通りであった。
このようにあいーとは様々なシーンに対応できる製品であるため、今後更なる可能性について期待している。
1) 江頭 文江: 静脈経腸栄養, 2014; 29(5): 25-29.
2) 山中 英治, 他: 日本医療マネジメント学会雑誌, 2012; 13(3): 139-144.
3) 藤谷 順子: Jpn J Rehabil Med, 2017; 54: 116-120.
4) 大野 友久, 他: 嚥下医学, 2021; 10(1): 65-71.
5) Higashiguchi, T: Nutrition. 2013; 29: 858-864.
6) 安井 由香, 他: 日摂食嚥下リハ会誌, 2021; 25(1): 52‒59.
7) Okamoto K, et al: International Journal of Food Sciences and Nutrition. 2022; 73: 1116-1123.
8) 光貞 美香: 日摂食嚥下リハ会誌, 2013; 17(3): 226‒232.
嚥下機能が低下した方はご使用をお控えください
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